深い深い井戸の中にいるようだ。深すぎて明かりが僅かしか見えない。今日は雨が降りそそいでいる。私の体はずぶ濡れだ。私は何処から来て何処へ向かっているのだろう。考えれば考えるほどわからなくなる。誰かに答えを求めても、きっと誰も答えを教えてはくれないだろう。
絶えず歩いている。雨の中を。ずぶ濡れの私に興味を抱くものは誰もいない。これからどうすのか何も決めてはいない。ただ、静かに朽ち果てるのを待つだけだ。周りの建物が何も意味をなしていない事に気付く。こんなものはただの塊だ。
それと同時に私もそのひとつだと気付く。命とは何なのか。そんなものは今更考えても遅い。
死にたいわけではない。ただ気付いてしまっただけだ。生物というものは尊くて儚いものだと誰が決めたのだ。
どうして涙を流す。どうして感情がある。そんなもの無意味だという事を、私は考えるようになってしまった。
いつからだったのだろう。光が見えなくなったのは。私の周りには闇しか無い。黒い黒い闇の世界。どろりどろりとした感情。
澄み渡る青空がとても眩しく感じてしまうようになったのは、いつからだったのだろう。
ノイズ。処理対象となる情報以外の不要な情報。
耳がおかしくなりそうだ。いらない。こんなものは必要としていない。
なら、私は何を欲しているのだ。僅かな明かりを求めてはいるのか。疑問符が頭の中を飛び交っている。それ自体が煩わしい。
頭がおかしくなりそうだ。
雨はまだ止まない。当分止みそうにない。私はそれでも良いと思った。どんよりとした空の下、濁った町並み。逆に心地が良い。心地が良いと思う感情すら、汚らわしく思えてきてしまったのを私は感じた。もう駄目だ。どうして私は生まれてきてしまったのだろう。廻る廻る生命の中に取り込まれてしまった。
しかし、私がここで朽ち果てた所で、何も支障は無いはずだ。代わりはいくらだっている。
「助けて」
本当はそう叫びたいのだろうか。しかし私は知っている。誰も助けてくれはしない事を。
私のこれは、誰にも救えはしない。自分自身で解決するしか方法は無いのだ。
涙がこぼれる。やめて。嗚咽を漏らしそうになる。やめて。私に感情など必要ない。膝から崩れ落ちる。やめて。
辛い。辛い。辛い。知っている。自分から逃げていた事を。気付かない振りをしていた事を。
手で顔を覆い必死で泣くのを堪える。声をあげたい気持ちを抑える。
それでも、もう遅いのだ。袋小路に入ってしまったようだ。逃げ出せない。何かが私を追いやっている。
昇る。昇る。階段を。階段に私の濡れた足跡がついてゆく。滴る雫が更にあたりを濃く染めていく。何処まで昇れば良いのだろう。天には到底届きそうにない。先程より少しばかり空に近付いたのを確認して、私はゆっくりと目を閉じた。
あぁ、せめてもの救いを、私に。
雨と共に落下した私の体は、吸い寄せられるように地面に張り付いた。
さよならさよならこの世界。
※これは「カクヨム」というサイトに投稿したものです。